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東京地方裁判所 平成5年(特わ)2142号 判決

本店所在地

東京都狛江市岩戸北二丁目一二番一一号

株式会社

勝栄

(右代表者代表取締役 山本勝美)

本籍

同市岩戸北二丁目一二番

住居

同市岩戸北二丁目一二番一一号

会社役員

山本勝美

昭和一四年一二月一〇日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官富松茂大、弁護人濱田弘幸各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社勝栄を罰金四五〇〇万円、被告人山本勝美を懲役一年六月にそれぞれ処する。

被告人山本勝美に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社勝栄(平成三年五月二九日以前は有限会社勝栄工務店、平成五年一月七日以前は株式会社勝栄工務店。以下「被告会社」という。)は、東京都狛江市岩戸北二丁目一二番一一号(平成元年四月一九日以前は同市岩戸北二丁目六番一五号)に本店を置き、土木建築工事、とび土工工事請負等を目的とする資本金一〇〇〇万円(平成三年五月一二日以前は五〇〇万円)の株式会社であり、被告人山本勝美(帰化前の氏名は千昌煥。以下「被告人」という。)は被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括していた。被告人は、被告会社の業務に関し、その法人税を免れようと考え、架空外注費を計上するなどの方法により所得の一部を隠して、

第一  昭和六四年一月一日から平成元年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が一億六九八六万〇三一〇円であった(別紙1(1)修正損益計算書及び1(2)修正建設原価報告書参照)のに、平成二年二月二六日、東京都府中市分梅町一丁目三一番地にある所轄の武蔵府中税務署において、税務署長に対し、その所得金額が二〇八五万一〇八六円で、これに対する法人税額が七七九万七四〇〇円であるという虚偽の内容の法人税確定申告を提出した。そして、そのまま法定の納期限を経過させた結果、この事業年度における正規の法人税額七〇三八万一二〇〇円と右の申告税額との差額六二五八万三八〇〇円(別紙4税額計算書(1)参照)を免れた。

第二  平成二年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億八九一九万八〇三四円であった(別紙2(1)修正損益計算書及び2(2)修正建設原価報告書参照)のに、平成三年二月二八日、武蔵府中税務署において、税務署長に対し、その所得金額が四三七九万九六八三円で、これに対する法人税額が一六六三万九六〇〇円であるという虚偽の内容の法人税確定申告書を提出した。そして、そのまま法定の納期限を経過させた結果、この事業年度における正規の法人税額七四七九万九二〇〇円と右の申告税額との差額五八一五万九六〇〇円(別紙4税額計算書(2)参照)を免れた。

第三  平成三年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二億〇五九八万九一四六円であった(別紙3(1)修正損益計算書及び3(2)修正建設原価報告書参照)のに、平成四年二月二八日、武蔵府中税務署において、税務署長に対し、その所得金額が四八九四万一二二三円で、これに対する法人税額が一七五九万二八〇〇円であるという虚偽の内容の法人税確定申告書を提出した。そして、そのまま法定の納期限を経過させた結果、この事業年度における正規の法人税額七六四八万五八〇〇円と右の申告税額との差額五八八九万三〇〇〇円(別紙4税額計算書(3)参照)を免れた。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書六通

一  荒井康男の検察官に対する供述調書

一  大蔵事務官作成の外注費調査書、下請労務費調査書、水道光熱費調査書、現場経費調査書、接待交際費調査書、通信費調査書、租税公課調査書、支払手数料調査書、受取利息調査書、支払利息割引料調査書、交際費損金不算入額調査書、都民税利子割調査書

一  検察事務官作成の捜査報告書

一  登記官作成の商業登記簿謄本、閉鎖登記簿謄本(二通)

判示第一、第二の事実について

一  大蔵事務官作成の給料手当調査書

判示第一の事実について

一  法人税確定申告書一袋(平成五年押第一六七五号の1)

判示第二、第三の事実について

一  大蔵事務官作成の完成工事高調査書、雑収入調査書、有価証券売却益調査書、事業税認定損調査書

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の工事未払金認容調査書

一  法人税確定申告書写一袋(同押号の2)

判示第三の事実について

一  大蔵事務官作成の賃金手当調査書

一  法人税確定申告書一袋(同押号の3)

(法令の適用)

被告人の判示各所為は、いずれも被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社につきいずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項に該当するので、いずれも情状により同条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により、各罪について定めた罰金額を合算し、その金額の範囲内で被告会社を罰金四五〇〇万円に処し、被告人の判示各所為は、いずれも法人税法一五九条一項に該当するので、いずれについても所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をし、その刑期の範囲内で被告人を懲役一年六月に処し、情状により刑法二五条一項を適用して、この裁判の確定した日から三年間その刑の執行を猶予する。

(量刑の理由)

本件は、土木建築工事請負等を営む被告会社が、外注費、下請労務費等の架空計上等の方法により、三事業年度にわたり合計約一億八〇〇〇万円近くの法人税を脱税したという事案であり、ほ脱率も三事業年度を通じて約八一パーセントとかなりの高率に達している。また、被告人は、平素から被告会社の経理帳簿等を記帳せず、経理書類の保管もずさんであるなど、納税意識も希薄であるといわざるをえない。加えて、被告会社は、平成二年一二月期に税務当局から税務調査で架空外注工事費の計上を指摘され、修正申告をしたにもかかわらず、平成三年一二月期にまた脱税を繰り返したという点でも悪質である。

しかし、被告人は脱税によって蓄積した金銭の相当部分を、元請会社の現場責任者等に対する接待に費消したり、下請けの労務者に貸し付けるなどしており、私的遊興には殆ど費消していない。また、被告会社は、本税及び延滞税、重加算税の相当部分を納付し、未納分についても税理士の指導の下で分納の計画を立て、将来完納することが見込まれている。さらに、被告人は、本件を反省して、事件の再犯を防ぐため、被告会社のずさんな経理処理を改め、新たに経理担当を雇うなどの策を講じている。加えて、被告人はさしたる前科はない。右のような事情を総合勘案のうえ、被告人に対しては今回に限り刑の執行を猶予し、被告会社に対しては主文の罰金刑を科することとした。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 朝山芳史)

別紙1 修正損益計算書

〈省略〉

(2) 修正建設原価報告書

〈省略〉

別紙2

(1) 修正損益計算書

〈省略〉

(2) 修正建設原価報告書

〈省略〉

別紙3

(1) 修正損益計算書

〈省略〉

(2) 修正建設原価報告書

〈省略〉

別紙4

(1) 税額計算書

自 昭和64年1月1日

至 平成元年12月31日

〈省略〉

(2) 自 平成2年1月1日

至 平成2年12月31日

〈省略〉

(3) 自 平成3年1月1日

至 平成3年12月31日

〈省略〉

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